月夜にまたたく魔法の意思 第8話3





 食糧の調達に行った三次が戻って来るまでの、きっかり2時間、優はファイヤーストームを焚き続けた。
 初めのうちは、三次が戻って来るまでに炎を終息できなかったらどうしよう、と心配していた優だったが、さすがに2時間もファイヤーストームを全力で燃やし続けると、体力的に疲れて魔力を自然と解除することができたのは幸いだった。
 解放した魔力を再び解除する感覚を、優は頭に叩き込んだ。

 燃える石炭とミルトスの葉で荷車を一杯にした三次が戻って来ると、優はグルエリオーサが言っていた、白くて柔らかい、ふわふわした物について聞いてみた。
 けれどやはり三次も思い当たるものがないようで、これに関しては後で二人で調べてみよう、ということになった。

「それにしても、派手にやったんだね」
 火鉢の上で形を失っている、元は鉄の大釜であったであろう歪な塊を、三次は足で注意深くどかして、そこに新しい釜をセットした。
「城の反対側にいても、はっきりと君の炎の力を感じ取れたよ。多分、ダイナモン中の生徒が飛び起きたんじゃないかなあ。ファイヤーストームってすごいんだね。今度から、鉄製のものは外に出しておかなきゃダメだね」
 三次はいつも、穏やかでのんびりとした口調だ。

 天窓を開閉するための鉄のねじ巻きも歪んでダメになってしまったので、天井にいるサンクタス・フミアルビーが珍しく不満そうに唸り声を上げていた。どうやら、外気に当てられるのがあまり好きではないらしい。

「フィアンマ・インテンサ・ドラゴンは、随分調子を取り戻したみたいだね」

 と、三次がグルエリオーサを見て言った。

 優の紅炎が今は小屋の中央で大きく燃え上がっていて、グルエリオーサはその中で行儀よく座り、燃える石炭を与えられるのを待っている。
 銀のスコップで赤々と燃える石炭とミルトスの葉をグルエリオーサの前の鉄窯に加えてやってから、三次が思い出したように荷車を指差した。
「ストロベリートマトも採って来たよ。その麻袋の中に入ってる」
「わあ! ありがとう」
 優は三次の荷車に駆け寄り、小さな麻袋を開いた。
 朝露に濡れた採りたての赤い野菜は、優が昨日森で食べたものと同じだ。早速一口噛むと、甘い香りに混ざってみずみずしいトマトの果汁が、空腹だった優の体に一気に浸み渡り、気持ちを元気にしてくれるのが分かった。

「それってまさか、君が食べたかったの?」
 天井からつり下がったロープを引きながら、三次が苦笑いしている。
 フミアルビーに餌をやるための吊りあげ滑車がファイヤー・ストームでダメになってしまった今、三次は手でロープを引っ張って、燃える石炭を天井まで引き上げようとしているのだ。

「これ大好き! 朝起きたときからずっと考えてたの、ストロベリートマトが食べたいな、って」
「てっきりドラゴンにやるのかと……まあ、いっか。美味しい?」
「うん!」
「それは良かった」

 3個目のストロベリートマトを口に頬張った時、優は視線を感じて顔を上げた。小さな檻のなかにいるシュピシャー・ドラゴンが、じっと優のことを見ている。

「ねえ、三次。チビドラゴンて、ストロベリートマトを食べる?」
「さあ、やってみたことがないから分からないなあ」
 三次は次々にドラゴンたちに燃える石炭を配っているが、シュピイシャー・ドラゴンだけは配られた石炭には目もくれず、物欲しそうな目で優のことを見ている。
 優は壁に備え付けられた檻の傍まで行って、チビドラゴンを見つめた。
「もしかして、これが欲しい?」
 指につまんだストロベリートマトを見せると、チビドラドンの金色の丸い大きな目が、さらに見開かれた。
 試しにストロベリートマトを檻の隙間から転がし入れて見ると、チビドラゴンは牙のない赤ちゃんのような口元を固く引き結び、疑うような目を優に向けて来た。
 優は麻袋からもう一つ取り出して、それを自分の口に入れた。
「すごく美味しいよ、甘くて」
 チビドラゴンは尚も優の視線を気にしながらも、その潰れた小さな鼻で注意深く、念入りにストロベリートマトの匂いを嗅ぎ始めた。
 そして、まさに恐る恐るの様子で真っ赤に熟した果実を口に入れた。モグモグすると、口元に可愛らしい皺が浮かび上がる。
 途端に金色の目がパッと見開かれ、キュイー、という今までに聞いたことのない音を発して、チビドラゴンがパタパタと背中の羽根を振り始めた。

「なに、気に入ったの?」
 試しにもう一つ投げ入れてやると、チビドラゴンは今度は迷わず、すぐに食い付いた。
 そればかりか、羽根をパタパタさせて、もっともっととせがむ様に檻の間から顔を出して来る。
 優がストロベリートマトを手に掴んだまま差し出すと、チビドラゴンは器用にその手からとって食べた。

「美味しい?」
 キュイー、キュイー

 まだ赤ちゃんだから言葉を話せないのかもしれない。
 そういえば朱雀が、「ストロベリートマトは子どもが好きな野菜の代名詞みたいなものだ」と言っていたっけ。
 チビのシュピシャー・ドラゴンはストロベリートマトをえらく気に入ったようで、ストロベリートマトは早速、三次の新しい食糧調達リストに加えられたのだった。



 ドラゴンたちに餌をやり終えた三次と一緒に城に戻る道で、優はグルエリオーサにかけられている呪いのことを、三次に話すべきかどうか悩んだ。
「ねえ三次、グルエリオーサの出産は、やっぱり1週間後くらい?」
「それが、どうも早産になりそうだって、昨日の夜、熊骸先生が言ってたよ」
「え、早産!?」
「うん、これ以上は母体がもたないだろう、って……」
「そんな……。それじゃ、いつ生まれるの?」
「遅くても来週の月曜かな」

 来週の月曜……。
 優は言葉を失った。
 グルエリオーサの呪いを解くために1週間は時間があると思ったのに、実際はあと3日もないのだ。言いようのない焦りが優の胸を締め付けて来た。

 西の庭園から回廊に入って食堂に近づくと、ベーコンやパンの焦げる朝食の匂いが漂ってくるが、優は朝食のことよりもグルエリオーサのことが心配になった。
「朝食を食べたら、すぐに図書室に調べに行かない?」
「あ、うん。今、僕も同じこと考えてた。フィアンマ・インテンサ・ドラゴンの食べたい例の白くてふわふわなものを、夕食には間に合わせてあげたいからね」
「うん、じゃあ朝食後にまた」
「わかった」
 そう言って食堂に入ったところで、優は三次と別れた。

 すでに流和や永久、それに空、吏紀、朱雀が席についているが、そのテーブルに進む優の表情はすぐれない。
 週末で授業は休みだというのに、食堂は早起きの生徒たちで賑わっていた。みんな今朝の優のファイヤー・ストームで起こされたのだ。
 優が入っていくと、何人かの生徒がチラチラと優のことを見ているようだった。

 テーブルにはサンドイッチやサラダ、それにフルーツが山盛りに置かれている。朝食はいつもバイキング方式だ。
 何か注文のある生徒だけが羽根ペンを呼び寄せてオーダーをしていた。

 優がテーブルにつくなり、みんなが物言いたげな目をキラキラさせて優に視線を向けて来る。
「おはよう、優」
「おはよう、流和、永久。それに、あなたたち」

「今朝のファイヤーストーム、まさかとは思うけど、死人は出てないよな」
 と、開口一番に吏紀が言った。
「うん、大丈夫。あの時間は誰もドラゴン小屋に近付かないでもらってるから」
 優はオレンジジュースをコップに注ぐと、すぐにサンドイッチを口に詰め込み始めた。
「おいおい、落ちついて食べろよ。そんなに腹が減ってたのか?」
 優雅に朝の紅茶をすすりながら、空が優のかぶりつきの良さに眉をひそめる。
「……うん、もう、お腹ペコペコ」

「ねえ、優。今日はとってもお天気がいいから、私たち3人で庭にピクニックに行こう、って流和と話してたんだけど。庭妖精がいるんだって!」
「庭妖精!? あ、でも……行きたいけど、ごめんね、この後三次と一緒に、図書室に行く約束をしてるから」
「三次くん、て確か、一学年下のオパールの子よね。試しの門のときにも居た。別にピクニックは調べ物が終わってからでもいいわよ」
 と流和。
「それがダメなの。多分今日一日かかっちゃうと思うんだ。グルエリオーサの出産が早まりそうだから……急がないと……」
 そこまで言った時、優の瞳にジンワリと涙がこみ上げて来た。
 それを押し隠すように、優はサンドイッチを思い切り口に押し込んで、オレンジジュースで強引に流しこんだ。

「何かあったのか」
 と、テーブルの向こうから朱雀が見つめるのを、優は見ないようにして答えた。
「グルエリオーサが食べたがってるものがあるの。白くてふわふわして、柔らかいものだっていうんだけど、それが何なのか私も三次も分からないから、……」
「綿花だ」
「っへ?」
 優が最後まで言い終わる前に朱雀が唐突に言うので、逆に優が聞き返した。
「綿花。ただし朝露にぬれたものではなく、真昼の太陽を存分に浴びた乾いた綿花をドラゴンは好む。それならダイナモンの温室にあるから、魔法植物係に言えばすぐに手に入るだろ」

 朱雀にそう言われ、優は昨晩、朱雀がドラゴンを飼っていたことがあると言っていたのは本当だったのだな、と改めて思った。
 もしかすると朱雀は、本当は優や三次よりもずっとドラゴンに詳しいのかもしれない。

「……ありがとう」
「わかったら、もう調べ物の必要はないだろ。図書室に行く用はなくなったって、アイツに言ってこいよ」
 と、朱雀が冷たく言った。

「でもダメ、まだ他にも調べることがあるの」

 優が本当に調べたかったのは、グルエリオーサの呪いを解く方法だ。
 だが、呪いのことはまだ誰にも言いたくなかった。口にしてしまえば、グルエリオーサにかけられている呪いが力を増してしまうような気がしたからだ。

「それじゃ、私はもう行くね」
「え、もう? まだ全然食べてないじゃないの、優」
「早ければ明日か、遅くても明後日には生まれそうだから、それまでにどうしても調べておきたいことがあるの。本当にごめんね、流和、永久。じゃあ、また後で」

 優はサンドイッチの欠片を無理やり口に押し込むと、三次と一緒にまた足早に食堂を出て行ってしまった。

 その姿を見送りながら、永久が退屈そうに溜め息を突く。
「せっかく今日は3人でのんびりできると思ったのに」
「優の図書室熱が再燃したようね。仕方ないわよ、あの子は本の虫だもの」

 永久と流和の会話を聞きながら、朱雀は何も言わずに飲みかけのブラックコーヒーを受け皿に戻した。
 白いカップの中で茶色い液面が、朱雀の心のようにゆらゆらと波打っていた。
 ダイナモンの図書室は広く、奥深く、薄暗い。まさに、男女が密会するにはうってつけの場で、朱雀もその場所を正しくない動機でこれまでに何度か利用したことがある。
 だから、このあと空が何気なく言った言葉に、朱雀はことさらにイラっとしたのだった。
「あんなに焦って男と図書室デートとはね。なあ、あいつらどうなってるわけ、付き合ってんのかな」

「はあ!?」
 流和が呆れた顔で空を見やり、首を横に振って否定する。
「それはないわよ」
「そうよ。そんなことになってるなら、まず私たちに言ってくれるはずだもの」
 と、永久も同調する。

「ちょっと言ってみただけだろ。でもさ、男と女が二人きりで丸一日、図書室にこもって調べ物なんて、なんかあやしいよな。優も何を考えてるんだか……」
「男と女っていうお前の誇張した表現は不適切だぞ、空」
 朱雀の不機嫌な雰囲気を察した吏紀が、珍しく空を咎めた。

「ところで朱雀は、もう優をダンスに誘ったのか?」
「いや。まだ菓子を持って来ない」
「そういえば優は、スコーンを焼くって言ってたわよ」
「ちょっと待てよ、菓子ってどういうことだ?」
「優が朱雀のために手作りのお菓子を作ろうとしてるのよ。ほら、舞踏会でダンスに誘ってもらいたい男子に、女子は手作りのお菓子を渡すのがダイナモンの風習でしょう」
「なんでそんな面倒なことをするんだ? そんなことしなくても、朱雀は優を誘うつもりだったろう」
「女心は複雑なのよ。せっかく優が手作りお菓子を作る気で張りきってるんだから、朱雀にはそれに合わせて申し込みをちょっと待ってもらってるの」
「けど舞踏会は来週の土曜だから、もうそんなに時間はないよな」
「あ! わかった。優はもしかすると、スコーンの作り方を調べに図書室に行っているのかもしれないわ! きっとそうよ!」
 と、永久が納得顔で頷く。
「なるほど。それなら、あの焦った様子も頷ける」
 と吏紀が言うと、空も肩をすくめて朱雀を見やった。
「良かったな、朱雀。ただでさえ男は、女子のドレスの色に合わせてタイを選んだり、コサージュを準備したりで気を持たせられるから、パートナーとの打ち合わせは早い方がいい」
「そんなの、別に構わないさ」

 それより朱雀は、今朝の優の様子がいつもと少し違っていたのが気になった。
 三次と何かあったのか、一瞬、泣きだしそうな顔をしたように見えた。だが寝ぼけたような顔もしていたし、泣きそうに見えたのは本当に一瞬だけだったから、もしかすると気のせいかもしれないが……。

「で、昨晩の優との魔法特訓はどうだったんだ?」
「コントロールには問題があるが、火力は申し分ない。それに、あいつの炎はすごく綺麗だな」
 吏紀の問いかけに答えて優のことを語る朱雀は、真っすぐだった。
 恥ずかしさなどおくびにも出さずに、優の炎を綺麗だと言った朱雀は、誇らしげでかつ、すごく優しい目をする。
 朱雀がそんな表情を見せるのは初めてだったのでこれにはみんな驚いた。


 愛を知らないシュコロボヴィッツに訪れた小さな恋の予感。
 それに呼応するように、その日は気持ちの良い春の陽気がダイナモンの城全体を覆っていた。



 一方、優は三次に連れられて、城の東側にある図書室へ向かった。
 ベラドンナの図書館が白亜の美しい神殿のような建物だったのにくらべ、ダイナモンの図書室は薄暗く、天井も低くて洞穴のようだった。
 細い通路が蟻の穴のように複雑に入り組んでいて、通路の両側に書架がびっしりと押し込まれている。さながら炭鉱探険のようだ。
 書架と書架の間にある閲覧机や、図書の返却棚の上には天井に届くほど本が山積みにされていて、ぶつからないように注意して歩かなければならない。
「図書委員とか、司書さんはいないの?」
 あまりに雑然とした図書室に驚いた優が訊ねた。

「図書委員はいないね。司書の先生ならいるけど、でも川西先生がいるのは平日の昼間だけなんだ。すごくヨボヨボのお婆ちゃんで、居ないことが多いけど。夕方5時以降と、土日は絶対にいないから、本を借りるときはほとんど自分たちでやらないといけないんだ」
 三次は狭い通路を器用に抜けて行きながら優に図書室の利用方法を説明してくれた。
 これだけ大量の蔵書がありながら管理が行き届いていないことは甚だ疑問を深めるところだが、本の貸し出しは簡単で、ベラドンナと同じ、貸出カード方式だった。

 低い天井には彫刻が織りなされ、その彫刻が天井を細かく分角して、そこに様々な天井画が描かれていた。
 とても古い絵で、絵具ははがれかかっているが、天井画にはアメジストを持つ老婆の姿や、小さな村の様子、その中にある石づくりの大きな建物と、山高帽をかぶった魔法使いたちがそこに集う様子が描かれ、天井画の中の石づくりの建物は、奥に進むにつれどんどん大きくなっていった。きっとこの天井には、ダイナモン魔法学校の長い歴史が描かれているのだろう、と優は思った。

 図書室の奥に進むにつれて、小さな窓からわずかに射していた光も届かなくなった。
 三次が立ち止って、図書室に備え付けの小さなランプに火を灯した。
 こんな雑然とした図書室で火を燃やして火事になったら大変だと優は思ったが、それにしてもこんなに暗いのでは仕方ない。
 電気がないのは本当に不便なことだ、と、優はここ何日か離れている文明を恋しく思った。

 魔法料理本の陳列棚を抜け、さらに入り組んだ通路を奥に進むと、小部屋のようになった別のスペースが開け、そこにも床から天井まで書架がびっしりと詰め込まれている。
「ここが魔法生物のスペースなんだ。ドラゴンのはDの棚にある」

 よく調べに来てるのか、三次は迷わずに優にドラゴンの本棚を教えてくれた。
「白くてフワフワしていて、柔らかいもの……」
 ランプをかざして、三次はすぐに『ドラゴンの飼養に関する手引き』という本を手に取った。
 優がランプを代わりに持ち、二人で肩を寄せ合って手引書のページを覗いて行った。厚みの薄いその本を一通りめくって見てから、三次が残念そうに溜め息をつく。
「前から思ってたんだけど、ドラゴンに関する本って品揃えが悪い上に、当てにならないんだよね。それというのも、昔からドラゴンは聖アトス族と仲がよくて、魔法使いとはあまり仲が良くなかったからなんだ」
 結局収穫は得られず、三次は手にしていた本を閉じて、本棚に戻した。
 もしかすると、聖アトスの領域だったベラドンナの図書館になら目当ての本があるかもしれない、と優は思ったが、今あそこへ戻るのは簡単ではなさそうだった。

「朱雀が、綿花だって言っていたんだけど」
「え、綿花?」
「うん。しかも朝露に濡れたものじゃなくて、真昼の太陽をたっぷり浴びた乾いた綿花をドラゴンは好むって、さっき朝食のとき言ってたの」
「綿花か! そんなの初めて聞いたけど、でも……」
 三次の瞳がランプの灯りを受けて嬉しそうに輝いた。
「あり得ないことじゃないかも。うん、高円寺くんが言うなら、それはかなり当たってるかも! 綿花なら白くてフワフワしていて、確かに柔らかい」
「じゃあ、綿花をやってみる?」
「うん! 綿花なら魔法植物を育てる温室に年中咲いてるから、今から行って早速、桜にもらってくるよ! あ、桜っていうのは、僕と同じ学年のピンクパールの女の子。試しの門以来友だちになったんだ。彼女、実は植物係なんだよ」
「ふーん、そうなんだ」
 優は、試しの門で一緒だった淡いピンク色の輝きを持つ女の子のことを思い出した。
 喜びの光を持つ女の子だったはずだ。あのときは全然話せなかったけれど、凛として可愛らしい女の子だったような気がする。もしかすると、三次ともお似合いかもしれない。
 光の届くところまで三次を見送って、優はそこで三次と別れた。
「ありがとう、優」
「うん。私はもう少し調べたいことがあるから、ここに残るね」

 三次が図書室を去ってから、誰もいない朝の図書室で優は一人、呪いに関する本棚を探して歩き始めた。


 
 
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