第1話−5
「つまり、警察に協力を要請され、事件現場を調べるために、あそこに入りこんだってわけだな」
「あ、はい。そういうことです」
キュウが事情を説明して、あれから早くも3時間が経過しようとしている。
都内の警察署に連行された私たち6人は、ぐったりと疲れて横一列に並んで座っていた。
「なるほどね。っで納得すると思うのか! お前らみたいなガキに、助けを求めた覚えはねえ!」
諸星警部が逆切れして怒鳴り散らすのも、もう何度目のことだろう。さっきからずっと、この繰り返しだ。
確かに、私たちは団探偵学園の生徒で、キンタ以外は私たちみんな中学生だから、「事件の捜査」なんて言っても、警察に相手にされないのはわかる。だからこそ説明が難しんだよね。
「いや、だからそれはもっと偉い、えらーい人からですねえ……」
さっきから必死に説明しようとしているのはキュウだけで、他のみんなは一言も口を開かずにそっぽを向いている。
警察に連行されたことがよっぽど気にいらなかったみたいだ。
私は目の前の諸星警部に、少しでも信じてもらえるように姿勢を正して、キュウと一緒に事情を説明しようとした。
「刑事さん、私たちは団探偵学園の生徒で、今回の事件の捜査のために派遣されたんです」
「なにい? 団探偵学園だとお?」
団探偵学園の名前を聞いて、諸星警部の表情が少し変わった。
キュウと私は目を見あわせて頷き合った。すかさずキュウが口を開く。
「そうなんですよ! ご存知ですよね、伝説の名探偵、団守彦が設立した、団探偵学園です!」
突破口を見つけたキュウの口調に熱がこもる。
「そう言われてみれば……」
諸星警部が私たちを見直すような姿勢を見せたときだった。
「もうよせ。どーせコイツら見かけでした人を判断しねえ。バッチかざして威張るだけで、聞く耳なんかもたねーよ」
と、キンタが余計なことを言ったので、みるみるうちに諸星警部の顔が真っ赤になった。
「貴様、桜田門に喧嘩売ってんのか!」
「上等じゃねーか! ほら、来いよ! 国家権力の犬ッ!!」
「キンタ、やめなって!」
キンタと諸星警部がテーブルごしに掴みあうのを、キュウが止めに入る。
「ほんっと子どもなんだから」
と、メグは心底呆れたようにそっぽを向いているし。
私はどうしていいのか分からなくなって、溜め息が出た。
思えば今日は大変な日だった。団探偵学園で一日の授業を終えて、放課後は七海先生の突然の実習があり、その後はミッションルームに行き、団先生直々に初の任務を受けて、初の実地調査へ向かい……その先で運悪く警察に連行されてしまって今に至る。時刻はもう、夜の8時を過ぎていた。クタクタだ。
するとそこへ、一人の男性刑事が入って来た。
「諸星さん」
灰色のスーツ姿の男性は、私たちが拘束されている部屋に入って来ると、なぜかメグに目を止めてビクっとした。ん?
私が見ると、メグもその男性を以前から知っているような素振りを見せた。
「知ってる人?」
私がこっそりメグに聞くと、メグは頷き、私の耳もとで囁いた。
「バイト先の常連さん」
「ふーん」
「どうした」
「……あッ、いや、あのう、実はですね」
諸星警部が男性刑事を迎え入れると、男性は我にかえってメグから視線をそらし、諸星警部に何やら耳打ちした。
「なんだとう?」
瞬間、諸星警部が目を丸くして私たちを見回した。
そして気まずそうに一つ、大きく咳払いをして困った顔になると、こう言った。
「……警察庁から通達だ。お前らをサポートしろってな」
「ほらあ」
キンタをはじめとして、Qクラスのみんなに安堵の表情が浮かぶ。
これでやっと解放される。良かった……と思ったら、キンタがまた余計なことを言った。
「わかったらさっさと捜査資料見せろよ!」
「見せるか! 調べたかったら、お前らだけで勝手にやれ」
諸星警部は怒って、部下の刑事さんをつれて部屋から出て行ってしまった。
上手くお願いすれば見せてもらえたかもしれないのに……。
取り残された私たちの間に沈黙が訪れた。
「……。」
「で、どうする?」
沈黙をやぶったのは数馬だった。
すると、キュウが拳を握りしめ、勢いよく立ちあがった。
「よーし、みんなで力を合わせて事件を解決しよう!!」
「おう!!」
キュウの掛け声に、私も拳をかざして立ち上がった。
けど、私とキュウ以外の他のみんなは呆れ顔で私たちを見つめている。
「あーあ……」
「時間の無駄遣いだ」
「さなえ、キュウに合わせることないわよ。ほんッと、付き合ってらんないんだから」
「えー、そんなあ。メグまで」
「みんな、なんで? なんで一緒に調べないの?」
私とキュウを残して、みんなが部屋の出口に向かう。数馬が私たちを振りかえった。
「キュウ、さなえ」
「はい」
「僕たちは競争原理の中にいるんだよ」
「どういうこと?」
「団先生の後継者は一人ってことだよ、さなえ」
「そう。Qクラスは仲良しグループなんかじゃない、ライバル同士なんだよ」
「自信ねーならあの部屋で留守番でもやってろ!」
キンタもそう言うと、私たちにお尻を向けてポンとたたいて、部屋から出て行ってしまった。
「ねえ、みんな! ライバルだけど、仲間でしょう?」
「キュウ、はっきり言ってウザイ」
メグがぴしゃりと言って、最後に部屋を出て行った。
残されたのは、私とキュウの二人だけ。
「そこまで言うなら! 僕たち二人でやってやるよ。僕だってねえ、やるときはやるんだから、ね、さなえ」
「うん……」
キュウと二人で捜査するのが嫌なわけじゃなかったけど、私は不安だった。
私がキュウの足手まといにならないといいんだけど……。
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