スラムダンク1話9




24対52
前半戦で33点あった点差が、28点差に縮まった。

「まあ、これくらいはやってもらわないと、張り合いがないってもんだぜ。」

女子の2連続ポイントに、赤木率いる男子チームがにわかに殺気立った。
後半戦、残り、18分。
28点差を埋めるには、時間が十分にあるとは、まだ言えない。

後半に入ってオールコートで1オン1ディフェンスをしている女子の作戦が成功し、男子チームの攻めのスピードが落ちた。



唯が片手を高く上げ、5本の指をヒラヒラさせて叫んだ。


「時間がありません、次、アーリーファイブでいきましょう!!」


アーリー、ファイブ?バスケットにそんな用語はない・・・。
男子チームが困惑して顔を見合わせた。
赤木が、唯とマッチアップしている宮城をチラリと見た。宮城がそれに無言で頷き返す。

ベンチで試合を見守っていた木暮がうなった。

「何か仕掛けてくるつもりだな。あの小さい12番、なかなかやるじゃないか。
ボールはまだ赤木たちが持っているのに、こちらに全然余裕を感じさせてくれない、あの威圧感。
オフェンスの俺たちの方が、何か仕掛けられるんじゃないかと不安にさせられるくらいだ。」


アーリーファイブ。宮城にもそれが何なのか、正確には分からなかった。だが、おそらくナンバープレイのことだろう、と、予測する。
ポイントガードが、決められたプレイの型を仲間に指示するときに使う、暗号のようなものだ。
アーリーは、速い。だから、速攻攻撃の一種だろうか。ボールはまだ、俺たちが持ってるっていうのに、コイツ、何考えてやがる?

舐めやがって。

宮城はドリブルしながら、ゴール下の誰にパスを出すか考えた。
花道は宮内にマークされている。花道のレベルじゃ、宮内にスティールされるリスクが高すぎる。
赤木の旦那は、あの神崎っていう4番が抑えてる。どっちにしても、ここからパスを出すには遠すぎる。
だとすると、三井さんか、流川か。

流川とマッチアップしている11番の早川恭とかいう1年は、やっかいだな、と、宮城は思った。後半に入って格段に動きが良くなってきてる。
ここは、三井さんに・・・


宮城は冷静に頭の中でゲームを組み立てると、突如ドリブルの速さを変えて右に大きく踏み出した。

「リョータと、あの1年の唯って子の、ガード対決だわ!」

彩子が思わず、ベンチで身を乗り出した。

右、 左、 右!
何度もフェイントをかけて、一度はボールを取られそうになりながらも、宮城はファウルぎりぎりで唯のディフェンスを交わし、ゴール下に切り込んだ。
唯が抜かれた!

恭がすかさず、宮城につこうとした。
だが、それを見た唯が叫んだ。

「恭、11番から離れないで!」

ゴール下がこれだけ混み合っていれば、7番の宮城は自分で強引にシュートに行くことはない、と、唯は思った。
むしろ、一度自分で中に切れ込んでディフェンスをかきまわしてから、外にパスを戻し、三井のスリーポイントを狙ってくる可能性が高い。
ただしこの時、流川がもし恭のディフェンスからのがれて、ゴール下でフリーになれば、話は別だ。
身長もテクニックもある流川なら、ゴール下が混んでいても関係なしにシュートを決めに来るだろう。
ゴール下では、宮城よりも流川をしっかり抑えることの方が重要だ。

唯の言葉に、宮城と流川が同時に舌打ちした。
恭は唯に言われた通り、しっかりと流川のディフェンスについた。

パスは必ず、一度外に戻って来る。その時が狙い目だ!


「宮城!」

三井が百合のディフェンスを振り切って、スリーポイントラインの外側から呼んだ。
宮城が三井にパスを回す。

その瞬間、百合と唯が顔を見合わせてアイコンタクトを交わした。

三井がパスを受け、すぐにシュート体勢に入った。その三井に、百合が立ちはだかる。
こいつ1人なら、フェイントで軽く抜ける。
三井は百合のブロックを交わしてシュートを打つために、一度身をかがめて体勢を変えた。

「まずい、ツーメンだ!三井さん、後ろ!!」

宮城がそう叫んだときには、もう遅かった。
三井の死角から走りこんできた唯が、三井の手の中のボールを弾き出した。

「なっ、!?」

『アーリーファイブ! 走って!!』

唯が叫んだ。


体育館中に響き渡るその叫びと同時に、神崎、宮内、百合、恭の4人が瞬時に逆サイドのゴール目指して全速力で駆けだした。

「速っ!」
「あがれー!!」


「百合さん!」
唯が百合にパスを出した。

「はい!宮さん!」

唯からパスを受けた百合は、ドリブルすることなくすぐに、自分の前を走って行く宮内にパスを回した。
男子のディフェンスが追いつかない。

「神崎!」

今度は宮内がすぐに神崎にパスした。

「はい!恭、まかせたわよ!」

ドリブルなしの全力走行。目にもとまらぬような、速いパス回しで、ボールはあっという間にゴール下まで運ばれた。
最後に神崎が、ゴール下に走りこんで行く恭にパスした。

恭はパスを受けると、そのままゴール下を通り過ぎる勢いで1歩、2歩で跳び上がり、ボールをリングの上に置いた。

シュッ

カチッ
26対52
その差は、26点。


体育館の端で、晴子が歓声を上げた。

「リバースレイアップ・・・。ゴール下を駆け抜けんばかりの勢いで走りながら、レイアップだけはあんなにキレイに決めるなんて!
すごいすごい恭ちゃん!カッコイイ!」


「ドリブルなしのパスワークだけでゴール下まで・・・。なんて速さなんだ。
あの宮城や桜木、流川でさえ、ボールに追いつけなかった。」

「そうですね。女子は、いいチームワークです。後半戦に入り、疲れている中で、あれだけ全力で走りながらの速いパスワークは、
そう簡単にできることじゃない。基礎訓練の積み上げがなせる技と言える。」
安西先生が満足そうにお茶をすすった。


「アーリーファイブだとお!? なんだ今のは、ドリブルなしで走りやがって、反則だろうが!」
コートでは、桜木花道が湯気を立てて唯に詰め寄った。

「カッコイイでしょー、アーリーファイブ。速攻ファイブとも言うんだけどね。」
「まんまじゃねーかよ。」
三井が呆れたように言った。

「全員でゴールに向かって走りながら、パスだけでボールを運ぶのか。ちくしょう、さすがに追いつけなかったぜ。」
と、宮城がぼやいた。
「結構キツイのよねーこれ。特に、ゴール下まで全力で走らされる恭は相当キツイと思うわ。」
百合がTシャツを仰ぎながら言った。

「ドリブルなしなんて反則だ!」
と、桜木がまた言った。
「3歩も歩いてないから反則じゃないわよ、バカね。」
神崎が困ったように桜木を見つめた。

「どあほうが。」
「んな!? 流川てめえ! 自分だって何もできなかったくせに偉っそうに」
「やめんか!バカ者が。いいかお前ら、女子にしてやられるのはここまでだ。もう1点たりとも、女子にはやらんぞ!」

「おお、ゴリ」
「わかってますよ、旦那。」
「負けねえ。」
「たりめーだ。」





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