スラムダンク1話7





『ナイスファイトー!!』



他の1年生と一緒にタオルを持って、唯はベンチに戻って来たメンバーに駆け寄った。

みんな息が上がって、汗ビッショリになっている。

特に恭が、疲れきってグッタリとベンチに座り込んだ。

ハーフタイムは10分。
その間に後半戦の作戦をたてて、メンバーの入れ替えを行ったりするのだ。


唯はスポーツドリンクを持って、恭に歩み寄った。
なのに恭は、唯にドリンクを差し出されても、顔も上げようとしない。



「ふはははは!!この天才にかかれば、女子なんぞ相手にもならないわ!!」

「調子にのるな、どあほう。相手が弱すぎる」


男子側のベンチから、桜木と流川の声が聞こえてきた。
恭の肩が震えた。

素人のくせに生意気な!と、唯は桜木を睨みつけた。


「なんだーちっちゃいの。悔しいのか、ふはははは!」

見かねた男子部キャプテンの赤木が、「調子にのるな!」と、桜木の頭にゲンコツを落とした。



唯は何も言わずに、恭の肩をポンポンとたたき、それから背中をさすってやった。
前半、恭はほとんど何もさせてもらえなかったから、よっぽど悔しいんだろうな。


唯はドリンクの蓋をあけて、恭の顔の前まで差し出した。

「ほら、飲みな?」

恭はそのとき初めて唯に気がついたように、押しつけられたドリンクを、力なく受け取った。



主将の神崎が後半戦のメンバーを発表した。

「後半は、エリカと藤沢と交代で、百合と唯を入れるから。33点差、後半追い上げる!」

「後半、恭は大丈夫?バテバテじゃないの。」

副主将の宮内が心配そうに恭を見下ろした。


「まあ、あの流川って子を相手にずっと頑張ってたからね。」

と、百合がさりげなくフォローを入れる。


「どうする、まだやれる?」

と、神崎が恭に聞いた。


すると恭は、拳をギュっと握り締めて顔を上げた。

「大丈夫です。」


その声が少し泣きそうだった。
実際、恭はそのあと泣いていたのかもしれない。頭からタオルをかぶっていたから唯には見えなかったけど。

恭はまだ1年だが、チームの誰もが認めるエースだった。
その恭の様子がいつもと違うことに戸惑い、女子チーム全員が、どうしていいかわからず顔を見合わせた。
確かに、男子との試合は精神的にも体力的にもかなりキツイ。1年の恭にはキツすぎたのだろうか・・・。



『大丈夫だよ、恭。』

また、唯が恭の肩をポンポンとたたいた。
エースとしての重責とか、孤独とか、そんなことは唯には分からなかった。
でも、バスケが大好きなはずの恭が、今はバスケをしててとても辛そうだ。バスケの楽しさ、忘れないでほしい。


「バスケットボールはみんなでするから楽しいんだよ? 
だから、恭1人でアイツを止められないなら、みんなで力を合わせて止めればいい。後半は私も、恭を助けるよ!」


「ほお。チビのくせに口だけは達者じゃないの、唯」
と、百合が関心したように言った。

「チビって言わないでくださーい!」



そのとき、ハーフタイム10分終了のブザーが鳴った。


「うっそ、もう終わり?まだ何の作戦もたててないのに。」

慌ただしくドリンクやタオルを置いて、後半戦のメンバー、神崎、宮内、石田百合、恭、
そして唯の5人は、ベンチから立ち上がった。


「作戦ならもう、たててまーす」

と、コートに向かって走りながら唯が自慢げに囁いた。


「作戦て、どんな」

恭の抑揚のない声が聞き返した。神崎、宮内、百合も、唯を見つめる。



「とりあえず、33点差の借金は、百合さんのスリーポイントで返済しましょう。」

「はあ!?バカ言ってんじゃないわよ。それは私に11回もスリーポイントをきめろってことか?ああ!?」

百合が唯の無茶ぶりにキレた。



「お、女子は仲間われかあ?」

「っていうかあのチビ、本当に出てきたよ・・・」

と、宮城と三井がぼやいた。



唯は続けた。

「バカじゃありません!アシストするんで、本気で頼みますよ、百合姉さん。一流のシューターでしょ?
これから男子にとられる分の点は、神崎先輩と宮内先輩、それに、恭でプラスマイナスゼロに確実に抑えていく。取られたら取り返す作戦で。
これ以上点差が開かないように、みなさんしっかりくらいついてくださいね!」

「簡単に言うけどね、あんたは・・・」
宮内があきれ顔で溜め息をついた。

「まあ、取られたら取り返す作戦はいいとして、スリーポイントはどうかな。
そう簡単に打たせてくれる相手じゃないと思うけど。」
そう言って百合が、チラリと三井を見た。

「わかってます。だから、確実なチャンスをみんなで作っていきましょう。
はっきり言って、さっきまでの試合を見る限りでは、練習のときの女子の方がスピードは上ですよ。」

「あ、それは私も感じた」

と、百合。


「だから、後半はこちらも速攻を狙っていきましょう。反対に守りは、オールコートで、向こうのランアンドガンオフェンスを防ぐ。」

「そうね、前半を戦ってみて、ディフェンスはオールコートの方がいいんじゃないかって、私思った。」

今度は宮内が唯に同意した。
それに続いて、思い出したように神崎が最後にみんなに言った。

「あと、11番の流川がポイントを決めてきてる。わかってると思うけど、後半はみんなで恭をフォローするわよ!」

『はい!』

「わかってる」

「りょうかーい」



「すみません・・・」

恭が小さな声でそう言い、うつむいた。その頭を神崎がポンと叩いた。

「恭、あんたは全然、アイツに負けてない。自信もちな! 後半みんなで巻き返していくわよ!」

「「「「はい!!」」」」

「湘北女子ー!!」

「「「「ファイッ!!!」」」」

『イチゴバー!』

「「「「ッ!?」」」」


最後の唯の謎の掛け声にはチームの誰もが首をかしげたが、こうして、後半戦、女子の巻き返しをかけた戦いが始まった。
その陰で唯だけが密かに、晴子と洋平たちに向かって手を振った。




「あの12番の小さい子、元気だな。」

木暮が関心したようにベンチで囁いた。


「体は小さいけど、ひとしきり大きな声でチームを引っ張っていく感じがありますね。
どんなプレイをするのか楽しみだわ。」

と、彩子も自然と顔をほころばせた。


後半戦、湘北男子チームは、赤木、桜木、流川、宮城、三井のベストメンバーで100点を狙いに行く。






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