『ナイスファイトー!!』
他の1年生と一緒にタオルを持って、唯はベンチに戻って来たメンバーに駆け寄った。
みんな息が上がって、汗ビッショリになっている。
特に恭が、疲れきってグッタリとベンチに座り込んだ。
ハーフタイムは10分。
その間に後半戦の作戦をたてて、メンバーの入れ替えを行ったりするのだ。
唯はスポーツドリンクを持って、恭に歩み寄った。
なのに恭は、唯にドリンクを差し出されても、顔も上げようとしない。
「ふはははは!!この天才にかかれば、女子なんぞ相手にもならないわ!!」
「調子にのるな、どあほう。相手が弱すぎる」
男子側のベンチから、桜木と流川の声が聞こえてきた。
恭の肩が震えた。
素人のくせに生意気な!と、唯は桜木を睨みつけた。
「なんだーちっちゃいの。悔しいのか、ふはははは!」
見かねた男子部キャプテンの赤木が、「調子にのるな!」と、桜木の頭にゲンコツを落とした。
唯は何も言わずに、恭の肩をポンポンとたたき、それから背中をさすってやった。
前半、恭はほとんど何もさせてもらえなかったから、よっぽど悔しいんだろうな。
唯はドリンクの蓋をあけて、恭の顔の前まで差し出した。
「ほら、飲みな?」
恭はそのとき初めて唯に気がついたように、押しつけられたドリンクを、力なく受け取った。
主将の神崎が後半戦のメンバーを発表した。
「後半は、エリカと藤沢と交代で、百合と唯を入れるから。33点差、後半追い上げる!」
「後半、恭は大丈夫?バテバテじゃないの。」
副主将の宮内が心配そうに恭を見下ろした。
「まあ、あの流川って子を相手にずっと頑張ってたからね。」
と、百合がさりげなくフォローを入れる。
「どうする、まだやれる?」
と、神崎が恭に聞いた。
すると恭は、拳をギュっと握り締めて顔を上げた。
「大丈夫です。」
その声が少し泣きそうだった。
実際、恭はそのあと泣いていたのかもしれない。頭からタオルをかぶっていたから唯には見えなかったけど。
恭はまだ1年だが、チームの誰もが認めるエースだった。
その恭の様子がいつもと違うことに戸惑い、女子チーム全員が、どうしていいかわからず顔を見合わせた。
確かに、男子との試合は精神的にも体力的にもかなりキツイ。1年の恭にはキツすぎたのだろうか・・・。
『大丈夫だよ、恭。』
また、唯が恭の肩をポンポンとたたいた。
エースとしての重責とか、孤独とか、そんなことは唯には分からなかった。
でも、バスケが大好きなはずの恭が、今はバスケをしててとても辛そうだ。バスケの楽しさ、忘れないでほしい。
「バスケットボールはみんなでするから楽しいんだよ?
だから、恭1人でアイツを止められないなら、みんなで力を合わせて止めればいい。後半は私も、恭を助けるよ!」
「ほお。チビのくせに口だけは達者じゃないの、唯」
と、百合が関心したように言った。
「チビって言わないでくださーい!」
そのとき、ハーフタイム10分終了のブザーが鳴った。
「うっそ、もう終わり?まだ何の作戦もたててないのに。」
慌ただしくドリンクやタオルを置いて、後半戦のメンバー、神崎、宮内、石田百合、恭、
そして唯の5人は、ベンチから立ち上がった。
「作戦ならもう、たててまーす」
と、コートに向かって走りながら唯が自慢げに囁いた。
「作戦て、どんな」
恭の抑揚のない声が聞き返した。神崎、宮内、百合も、唯を見つめる。
「とりあえず、33点差の借金は、百合さんのスリーポイントで返済しましょう。」
「はあ!?バカ言ってんじゃないわよ。それは私に11回もスリーポイントをきめろってことか?ああ!?」
百合が唯の無茶ぶりにキレた。
「お、女子は仲間われかあ?」
「っていうかあのチビ、本当に出てきたよ・・・」
と、宮城と三井がぼやいた。
唯は続けた。
「バカじゃありません!アシストするんで、本気で頼みますよ、百合姉さん。一流のシューターでしょ?
これから男子にとられる分の点は、神崎先輩と宮内先輩、それに、恭でプラスマイナスゼロに確実に抑えていく。取られたら取り返す作戦で。
これ以上点差が開かないように、みなさんしっかりくらいついてくださいね!」
「簡単に言うけどね、あんたは・・・」
宮内があきれ顔で溜め息をついた。
「まあ、取られたら取り返す作戦はいいとして、スリーポイントはどうかな。
そう簡単に打たせてくれる相手じゃないと思うけど。」
そう言って百合が、チラリと三井を見た。
「わかってます。だから、確実なチャンスをみんなで作っていきましょう。
はっきり言って、さっきまでの試合を見る限りでは、練習のときの女子の方がスピードは上ですよ。」
「あ、それは私も感じた」
と、百合。
「だから、後半はこちらも速攻を狙っていきましょう。反対に守りは、オールコートで、向こうのランアンドガンオフェンスを防ぐ。」
「そうね、前半を戦ってみて、ディフェンスはオールコートの方がいいんじゃないかって、私思った。」
今度は宮内が唯に同意した。
それに続いて、思い出したように神崎が最後にみんなに言った。
「あと、11番の流川がポイントを決めてきてる。わかってると思うけど、後半はみんなで恭をフォローするわよ!」
『はい!』
「わかってる」
「りょうかーい」
「すみません・・・」
恭が小さな声でそう言い、うつむいた。その頭を神崎がポンと叩いた。
「恭、あんたは全然、アイツに負けてない。自信もちな! 後半みんなで巻き返していくわよ!」
「「「「はい!!」」」」
「湘北女子ー!!」
「「「「ファイッ!!!」」」」
『イチゴバー!』
「「「「ッ!?」」」」
最後の唯の謎の掛け声にはチームの誰もが首をかしげたが、こうして、後半戦、女子の巻き返しをかけた戦いが始まった。
その陰で唯だけが密かに、晴子と洋平たちに向かって手を振った。
「あの12番の小さい子、元気だな。」
木暮が関心したようにベンチで囁いた。
「体は小さいけど、ひとしきり大きな声でチームを引っ張っていく感じがありますね。
どんなプレイをするのか楽しみだわ。」
と、彩子も自然と顔をほころばせた。
後半戦、湘北男子チームは、赤木、桜木、流川、宮城、三井のベストメンバーで100点を狙いに行く。
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