スラムダンク1話11




2分間のインターバルが終わり、流川は左腕のリストバンドの位置を直しながらコートに戻って行った。
その視線の先に唯が映る。


― あの11番、なんていう人?

コートの中で戦いながら、流川には、唯が三井に聞く声が届いていた。

― お前、女子のくせに流川を知らねーのか? 同じ1年だろうが
― ルカワ? はじめて聞いた。

そして流川はダンクを決めた。
誰が自分を知っているとか、知らないとか、そんなことはどうでもいい。今まで、そんなことを気にしたことがなかった。
でも、どうしてなのかあのときは、腹が立った。


チビなのに、恐ろしくデカい声で体育館に入って来た唯。
こんな女子が同じ学校に、しかも同じ学年にいたなんて、全然知らなかった。
初対面の桜木の前髪を鷲掴みにし、さっきは、ファウルしてきた桜木に対して怒りのハイキックをかます唯の姿に、流川は新鮮さを感じた。

はじめのあたりで、唯に股下からパスを通されたことを根に持っているわけではないが、
流川はなんだか、唯を見ていると落ち着かない気分にさせられた。
それが無性に腹立たしい。



後半戦最初のリバウンドボールを制したのは赤木。
赤木が宮城にパスを出し、宮城が流川にパスした。

舐めんなよ。


流川は左から右、右から左へとボールを両手ではじくと、ドリブルの速度を速めて猛進した。

11番の恭のディフェンスをかわし、フォローに入った8番の百合を抜いてゴール下。
流川は大きく踏み切った。

「高い!」

神崎と宮内が2人がかりで流川をブロックするも、流川は右手に掴んでいたボールを一度下げて、それを交わした。
そのまま左手に持ち替えたボールを、激しくリングに叩き込む。

ダーン!


「 ダブル・バンプ 」

唯は口をぽかんと開けて、流川を見上げていた。
耐空時間が長く、ボディーバランスが良くなくちゃ、空中であんな動きはできない。

うらやましいな、と、唯は思った。


女の子たちの悲鳴が体育館中に木霊する。
「キャーーーー!!! 流川くぅーん! 最高!!」
「「「ルカワッ、ルカワッ、ルカワッ」」」


「ちっくしょう・・・」
唯の隣で、恭が悔しそうに舌打ちした。

「どんまい、恭。今のはすごかったね。次、あれが来たら、今度は2人で止めよう。」
「うん。・・・でも唯、7番フリーにするわけにいかないだろ。もし、流川から7番にパスが出たら、」
「そんときはそんとき。必死で走るよ」

唯はそう言って、笑った。

不思議だな、と、恭は思った。唯が笑うと、こっちも、何とかなるって気になってくる。
大丈夫。疲れてるけど、息が上がっているけど、まだまだ走れる。
次は絶対に止めてみせる。

恭はもう、流川に抜かれても1人で落ち込んだりしなかった。
次、止めればいいんだ。


流川のダンクが決まり、得点は50対67

17点差。残り時間9分をきったところで、女子のオフェンスがゴール下で停滞した。
第4クオーターに入ってから、赤木率いる男子チームのディフェンスが変わったのだ。パスが出せない。

「ふーん、ボックス2のゾーンディフェンスか。」

スリーポイントラインを少しわったところでドリブルしながら、唯が呟いた。

ゴール下は赤木、流川、桜木の3人がゾーンで固めている。これだけがっちり固められたんじゃ、中にパスは出せない。
一方、外にいる百合は、三井と宮城のツーメンでガードされている。


なるほど、百合さんに打たせない気なんだ。

どうしよう、と、唯は思った。中に切れ込んで相手のディフェンスをかき回し、ローポストから狙っていくか。
ただ、そうなると、10番の赤頭にファウルされるかもしれない。さっきは無傷だったけど、2度目は何が起こるか分からないな。


「どうしたよチビっこ。早くしないとオフェンスタイムアウトだぞ。」
と、三井が言った。

オフェンスはボールを保持した時点から24秒以内にシュートを打たないとヴァイオレーションをとられ、相手ボールになってしまう。
その場合、相手からのスローインだ。


「百合さんに打たせない気なのね。この、 ひきょう者!!」

「卑怯なことあるかアホ、作戦だろうが」

「ふん。」

唯は、いかにも気に入らない、というふうに三井と宮城をねめつけると、ゴール下のシュートクロックを見上げた。
あと5秒。

4、3、2、

唯は、ダン!と、強くドリブルをつき、スリーポイントラインの外側に飛び出した。
百合さんが打てない時には、私が打つ!

「打つぞ!リバウンドだ!」



1。


ガンッ!シュッ

唯の投げたボールはバックボードに打ち当たると、見事にリングをすり抜けた。

53対67
その差は14点に縮まった。


「わーお、唯、ナイッシュー」
「唯ナイス」
「ナイス、唯」
「もっと打ってっていいわよ、唯。あんたに譲るから」
「何言ってるんですよ百合さん、1本、貸しですからね。」


桜木が顔をしかめて宮城に詰め寄った。
「おいりょーちん、12番に得点力はなかったんじゃないのか。」
「ああ・・・まさか、あの位置から打って届くとは思わなかった。」
「って、打ってきたじゃねーか普通に!」
「うっせえ! 1回決まったくらいじゃわかんねーよ。 まぐれかも」

「はあ・・・。」

流川がわざとらしく溜め息をついた。



唯のスリーポイントシュートはまぐれかもしれない、と思った宮城だったが、同じような状況で、唯はその後もスリーポイントを決めた。
恭のオフェンスがゴール下のゾーンで阻まれ、あやうく流川にボールを奪われそうになって
唯にパスが回った。

ゴール下はゾーン。
百合は三井と宮城のツーメンで塞がれている。

「ほら嬢ちゃん、さっきのがまぐれじゃないなら、もう1回やってみな」

だが、宮城がそう言い終わるか終らないかのうちに、唯はすでにスリーポイントラインの外側からジャンプシュートをはなっていた。
今度こそリバウンド!!
ゴール下の桜木と赤木が身構えた。


ガンッ!シュッ

ボールはまたしてもバックボードにあたり、リングをくぐり抜けた。
56対67


「ちッ・・・・」
「なーんだよあいつ!スリーポイント打ってくるじゃねーか」

三井と宮城が毒づいた。
すると、百合が口を開いた。

「何よあんたたち、唯が打てないと思ってたわけ? 唯は一応、うちのポイントガードなんだから。
今までは積極的にシュートに行く必要がなかったから打ってなかっただけで、仲間が押さえられたときには、
あの子はいくらでも自分で決めに行く子よ。まあ、スリーポイントは私ほどじゃないけどね〜」

「やっぱり。大ハズレ。 ハァ・・・」

流川がまたしても大きく溜め息をついた。三井と宮城がピクっと震えた。



「百合さーん、また1本貸しですからねー!」
次のディフェンスに備えて走って行った唯が、遠くから叫んだ。
「うっさいなぁ!あんたは、もう!さっきのシュート、ちょっとぶれてたわよ? 練習が足りん!」
百合が唯にチョップした。
「ええー、八つ当たり!?」

唯はケラケラと笑いながら百合のチョップを両手でガードした。
その横を流川が無言で通り過ぎて行った。




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