5月14日、日曜日。
湘北高校男子バスケットボール部が、三井寿率いる不良軍団と体育館で暴力事件を起こしてから1週間がたった。
あれから一転、2年の宮城涼太、3年の三井寿を仲間に加え、 いまや男子バスケットボール部はインターハイ予選に向け、
日夜厳しい練習に明け暮れていた。
その頃、同じくインターハイ予選に向け、男子バスケ部とは別の第2体育館で練習していた湘北高校女子バスケットボール部に、
大きな危機が迫っていた。
「体育館、取り壊しぃいい!?」
女子バスケット部主将の神埼雫(かんざき しずく)の悲痛な声が、旧校舎5階の第2体育館にこだました。
「教頭先生、いったいどういうことですか!」
副キャプテンの宮内夏見(みやうち なつみ)も、教頭に詰め寄った。
女子バスケット部といえど、副主将の宮内の身長は182センチ。
その宮内に責められて、およそ20センチは背が低いだろう教頭は、無意識に一歩退いた。
「だからね、かねてから、ここ第2体育館は老朽化が問題になっていたって、さっきから説明しているだろ。
そんな折、いよいよ今年、県からの助成金で第2体育館を改修工事することが正式に決まったんだよ。
この機会を逃せば、次はいつ助成金がおりるか分からない…」
「だからって、何もこの大事な時期にやらなくても…。インターハイ予選は1週間後に迫っているんですよ、先生!?
練習する場所がなくなったら、私たち一体、どうすればいいんですか?」
主将の神崎が、今にも泣きそうな声で必死に教頭に訴えた。
「それは分かっている。 だから、明日から君たちには、男子バスケット部と同じ第1体育館で練習をしてもらいたいんだ。」
「はあ、男子と一緒!? イヤよ、むさ苦しい!」
真っ先にそう言ったのは、2年の石田百合だ。
身長は172センチ。教頭よりもデカいが、おそらく女子バスケ部の中で1番お色気のある生徒だ。
「しかし、それしか方法はないぞ。
そもそも、バスケット部は男女ともにあまり人数が多いわけじゃないんだし。
学校としても、いつまでも君たちだけに体育館を2つも貸し出すわけにはいかなくなってきたんだ。
他にもチアリーディング部や、新体操部も体育館を使いたがっている…」
「つまり、この際バスケット部を、第1体育館にまとめちゃえってことなんですね…ひどい!」
身長184センチの神埼が不満そうに教頭を見降ろした。
「この話、男バス部主将の赤木は、もう知っているんですか?」
「いや、まだだ…。まあそこは、練習日程の兼ね合い等も含めて、キャプテン同士で話をつけてくれ。
工事は明日から始まる。じゃあそういうことだから、頼んだぞ!」
高身長の女子バスケット部主将の神崎と、・副主将宮内のすさまじい怒りのオーラに圧倒され、
教頭はそそくさと第2体育館を出て行った。
そして、後に残された女子バスケット部員の間に沈黙が流れた。
今年は女子バスケット部も全国を狙っているっていうのに!
しかもあの、男バス部主将の赤木が、女子と体育館を共有して練習することをよく思うはずがない。
予選試合を1週間後に控え、もう1日だって練習をあけられないのに・・・。
何というバッドタイミング。どう調整したって、男子と同じ時間帯に体育館を使うことは避けられないだろう。
困ったな、どうしよう・・・。
主将の神崎雫は、悔しさと腹立たしさで拳をブルブル震わせた。
今日がまさか、第2体育館での最後の練習になるとは、女子バスケット部の誰も想像していなかったことだった。
「さあ、練習するわよ!男子になんか負けられるもんですか」
一方、体育館を後にした教頭はホッと胸をなでおろしていた。
ほ〜、こわい、こわい。
女子バスケット部といえど、平均身長は175センチと高身長がそろっている。
あのデカさには、さすがの教頭も圧倒されてしまう。
インターハイ予選に向けて練習に励んでいる女子バスケット部には少し可哀そうなことをしたが、これも仕方あるまい。
バスケットボール部は男女共に、昨年も、インターハイ予選1回戦負け。
学校側としても、今年は全国を狙える新体操部やチアリーディング部のために、改装した第2体育館を使わせたい意向だ。
男子バスケット部の赤木と、女子バスケット部の神崎が普段から犬猿の仲だというのは知っていたが、
まああの2人のことだ。いざとなればきっと上手く、それぞれの部をまとめてくれるだろう。
ドン
「おおッ!?」
『あ、教頭先生、さようなら』
旧校舎1階の廊下を曲がったところで、1人の女子生徒が教頭とぶつかった。
教頭はその衝撃でよろけたが、教頭よりも背の低い小柄な女子生徒の方はビクともせずに、体育館に続く階段を勢いよく駆け上って行った。
こんな時間に旧校舎にやって来るなんて、もしかしてあの子もバスケットボール部なのだろうか?
だが、あんな小柄な子が女子バスケット部にいただろうか…?
教頭は走り去る女子生徒の後ろ姿を見つめ、きょとんと首をかしげたが、それきり大して気にも留めず、旧校舎を後にした。
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