シャインとシャドウ 1話1




人は何も持たずに生まれ、死にゆくもの。
しかし、生涯を通じて多くの宝を得、それに執着し、手放せなくなるのが人というもの。
金持ちたちよ、心せよ。
我再び言わん。
――人は何も持たずに生まれ、死にゆくもの。
この肉体でさえやがて塵に還る。
死後の世界に携え行くことのできる宝など、この世の中に在りはしない。

それでもなお、失うことを恐れる愚かな人間ども!

己が最初から何も持たない者であることを、忘れたのか?

ならば、お前たちの宝を根こそぎ盗み取ってやろうぞ。
そのときお前たちは、己が何者であるかを思い知るがいい。


今宵、隠された財宝倉は我がために開き、闇に眠る金塊は我とともに起きあがる。
貧しき民を虐げる不正の富は裁きの炎に焼き尽くされよう!
お前たちが卑しく握りしめている、その全てを

 
【今宵、頂戴しに参る】

我に盗み出せない物が、この世にあろうか?
否、すべての形ある物は失われるだろう。
すべての影なるものは我が手により光を得、白日のもとに姿を晒さん。


――怪盗 ラッフルズ






富と名声に彩られた国、ブルックリンを騒がせている大怪盗。
今世紀、最も恐るべき怪盗と呼ばれるラッフルズの出現に、人々は震撼していた。

その一方で、貧しさと飢えに苦しむ人々が、奇跡のように救われたという話が、時々、ブルックリンの片隅にもちあがるのは、怪盗ラッフルズが金持ち連中から頂戴した財宝を、貧しい者に分け与えているからだと信じて疑わない者がいる。
その噂が本当かどうかは、誰にも分からない。

今や、国中がラッフルズに翻弄されている。
金持ちは落胆し、貧乏人は希望を抱く。町は期待と恐怖の入り混じった奇妙な雰囲気に包まれていた。


今宵も、ラッフルズの予告状が貴族の屋敷に届けられる。
百発百中で狙った獲物を逃さないラッフルズの正体は、未だ謎に包まれている。
しかし、そんな大怪盗がある夜、一つの大きなミスを犯した。
彼も人間だったのだ。
泥棒であるラッフルズが、一人の娘に心を奪われた。

これが、すべての物語のはじまり。




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