第4話−16

「私も中学の頃から、彼女のこと憧れてたわ。絵美菜さんみたいになりたかった……。それで、私、あるとき思いついたの。こんな私でも、インターネットの中なら、理想の自分になれる、って。アニメを名乗ってる私は、美人で、明るくて、頭もいい理想の高校生……」

「嘘だ!!」
「キャッ!」
「やめて!」
 突然、富永君が遠谷さんに飛びかかって来たので、私はとっさに遠谷さんの前に出て富永君を押し返した。
 けど、男の子の力はやっぱり強くて、私は後ろにフラついた。
「やめろ!」
 すぐにキンタが富永君を後ろから抑えてくれなかったら、きっと二次被害が出ていただろう。

 ガチャン。

 ミーティングルームのドアが開き、白いジャケットに、黒いハットをオシャレにきめた七海先生が入って来た。

「その子が言っていることは真実だ」
「七海先生」
「小倉絵美菜は自殺なんかじゃない。恋人と駆け落ちしたんだ」
「駆け落ち!?」

 七海先生は証拠の写真をテーブルの上に広げ、私たちみんなに見せてくれた。

「これが本当だとすると、この犯行は、富永君の動機そのものが、インターネットの世界だけの虚構だったっていうの?」
 あまりにも空虚な結末に、メグの声が上ずった。

 ありもしない虚構のために。存在さえしていない空想の恋人のために。
 亀田君は殺され、そして、朝吹さんも一生を奪われた。

 こんな悲しくて、虚しい結末があるだろうか……。

 誰もが言葉を失った、その中で。
「富永君……」
 キュウが、富永君に静かに語りかけた。

「どうして、彼女が攻撃されてたとき、自分の正体を明かさなかったの? なんで現実の世界で、彼女を守ろうとしなかったの!? そしたら、こんな誤解を招くことは……なかったのに」

 富永君が放心して床に座り込んだ。
 遠谷さんの目からはポロポロと涙がこぼれ、佐久間さんでさえ、悲しみに瞳を曇らせている。

「僕たちが生きていかなきゃいけない世界は、ネットの中じゃないんだよ。現実の世界は残酷で、思い通りにいかないことだってたくさんある。でも、『こうなりたい』って夢があるなら、そこから逃げちゃ、ダメなんだ。ちゃんと、ありのままの自分を受け入れて、立ち向かうしかないんだ」

――夢、忘れてた。
 いつか世界中の映画ファンをスクリーンに釘づけにするような作品をつくろう、って
 みんなで、

 約束、してたのにな。


 佐久間さんが、涙を流しながらビデオカメラを構えた。
 一つの物語と夢が終わった、その区切りを、敬意をこめて映像に残すみたいに。

 ここからまた、残された彼らは新しく踏み出して行けるのかな。
 そこにはもう、亀田君と朝吹さんはいない。






 こうして富永君は警察に逮捕され、事件は幕を閉じた。
 けれど、高校生が一人で実行したにしては、あまりに緻密に殺人が行われたことを、警察は怪しんでいる。

「全部、自分で考えたのか?」
「メールが届いたんです。『完全犯罪の計画書を売ってる人間を知ってる』って。その人を紹介してもらって、会いに行きました」
「どんな奴だ。何か、覚えていることはないか?」

「覚えて、いること……?」


 その後、富永君は精神錯乱状態に陥り、自分で壁に頭を打ち付けて自殺を図ったそうだ。





4話(完) 5話へ続く