第3話−14

 
 朝の9時を過ぎると、メグと数馬、キュウとキンタが、ぞろぞろとミッションルームにやって来た。

 キュウとキンタがゲラゲラ笑いながら非常扉をくぐって来たのを、メグが人差し指をたてて「シー!」と言って黙らせた。

 数馬の身に起こった悲劇を、すでにメグ、リュウ、さなえの3人は知っていたが、事情を知らないキュウとキンタが、素っ頓狂な顔をした。
 そして、中央テーブルの上に突っ伏している数馬に気づいた。
 当の数馬は、目が死んだ魚のようになってしまい、放心して表情も腑抜た感じになってしまっている。

「あれ?……数馬、どうした、の?」

「それがさあ……」
 プププッと吹きだしながら、メグが水を得た魚のごとく生き生きと立ち上がってキュウとキンタに説明した。
「瑶子さん、……結婚するんだって!」
「ええ!?」
「マジでえ!?」
「うん!」

「っじゃあ数馬、フラれ、ちゃった、の……?」
 キュウの遠慮のない発言に、数馬がピクリと反応して勢いよく立ちあがった。

「ちゃ、ちゃんと告ったわけじゃないから、フラれたとは、い、言えないよ!」

 この数馬の発言に、キュウは言葉を失い、メグは憐みの視線を送る。
 キンタだけがズケズケと、
「どんだけ負けず嫌いなんだよ」
 と言った。
「……。」
 その時、数馬の携帯が鳴った。

「もしもし」
 携帯に出た数馬の声は、いつものカッコつけた声にスイッチされたのだが、直後、数馬の口から語られた言葉に私たちは驚いた。

「はい、申し訳ありません。ゲーム制作の方は、当分、休ませてもらいます。今、本気でやりたいことがあって……」

 誰よりメグが、数馬の言葉に嬉しそうに微笑んだ。

 通話を終えた数馬に、キュウが質問した。

「ねえ、数馬。本気でやりたいこと、って」
 すると、数馬はQクラスのみんなを振り返ってキッパリと言った。

「デジタルだろうとアナログだろうと、みんなには負けないからね!」

 数馬がビシリとQクラスのみんなのことを指差したので、さなえも笑ってしまった。

 やっと数馬は、自分の糸を見つけたんだね。いや、見つけたというよりも、数馬が選び取った一本なのかな。
 キュウもキンタも、メグもリュウも、みんな何も言わなかったけど、今回ばかりは少し誇らしそうに数馬を見つめた。

 だが、私たちが密かに感動していたのも束の間。
 いきなり数馬が鞄から一枚の紙を取り出して、それを私たちに見せた。

「えっ、何それ?」
「『探偵養成ギブス』さ!!」
 数馬が見せたA4大の紙には、筋肉ムキムキな男性が、体に複雑な構造の機械をつけている絵が描かれていた。
「へ?」
「え……?」
 私たちの冷めた反応とは裏腹に、数馬は自信たっぷりに伊達眼鏡を指で押し上げて宣言した。
「これさえあれば、キンタにも負けない体力がつく!」

 瞬間、キンタが乱暴に紙をひったくった。
「こんなの作ってる暇があったら、腕立てでもやってろ!」
「返せよ! 僕の最高傑作!」

 メグがキンタから紙を引き継いで言った。
「エネルギー向ける方向が間違ってるよねー、コレ!」
「返せって。キンタにも負けないんだからね!」
「ふぅ〜!!」
「ちょっと待って」

 キンタとメグにからかわれても、今日の数馬はどこか楽しそうだった。
 やっぱりQクラスは、6人全員がそろっているのがいいな、とさなえは思った。




3話(完) 4話へ続く