『生きる。』
空の雲が動いているのを見て、世界が生きているのを知った。
私たちは皆、幼子のよう。
足もとを這う蟻を踏まないように歩いた。
道を横断する毛虫が潰されませんようにと、願った。
雀たちの忙しいお喋りに耳を傾け、
不機嫌そうな烏に、どうしたの? と問いかけた。
夜明け前の青に神秘を感じ、
夕暮れの赤に胸を焦がし、
照りつける真昼の太陽から平安と幸福を学ぶ。
静かな夜に愛する人を恋い、
優しい雨に家族を思い、
激しい嵐の日には、すれ違う他人をさえ案じていたのに
――世界のみんなが幸せでありますように。
私たちはいつから、そう願うことを辞めてしまったのだろう。
空の雲が動いている。
世界は生きている。
私が生きている。
貴方が、生きている。
だから、世界のみんなが幸せでありますように。
私は幼子のように願う。